低血糖にそなえてグルカゴン

甲状腺イラスト

令和6125日に「学校等における重症の低血糖発作時のグルカゴン点鼻粉末剤投与について」という通知がでて、特定の条件を満たした場合は学校の先生などがグルカゴン点鼻粉末剤の投与ができるようになりました。

 糖尿病患者さんをサポートする方法の一つとして選択肢が広がったのはよいなと思います。使い方などしっかり共有していざというときの備えができればよいですね。ご興味のある方は声をかけてもらえれば実物や練習用機材などをお見せしてご説明いたします(通院患者さんでなくてもご家族や生徒さんがインスリンを使用されていて気になるなどでもご相談ください)。

 

 

糖尿病の治療薬はたくさん種類があります。病態に応じて使い分けたり組み合わせたりしています。血糖値を下げるホルモンであるインスリンが不足している場合にはインスリン療法が選択されます。

インスリンは筋肉などの細胞に働きかけて血中の糖分を細胞内に取り込ませることで血糖値を下げるわけですが、その量が増えると効果が大きくなるため、血糖値が高い場合には注射する量を増やして血糖を下げることを目指します。一方で血糖はごはんを食べたり、運動をするなど様々な理由で変動するため、本来必要なインスリンの量は常に変動しています。インスリンを分泌する膵臓の機能が低下すると血糖値に応じてインスリンの分泌を増加させることができず血糖値が上がるわけです。そのため外から不足するインスリンを補充するのですが、補充量が多すぎると血糖値が下がりすぎるすなわち「低血糖」が生じます。

「低血糖」状態では空腹感や発汗・手の震えなどの症状が生じることがあります。糖分を摂取して血糖値があがればこれらの症状は無くなりますが、重度の低血糖では意識障害やけいれんが生じることがあり自力での対応が困難となります。その場合、救急搬送され病院で糖入りの点滴による治療を行うこととなりますが、治療が始まるまで低血糖が続くことで状態が悪くなってしまう可能性があります。すみやかな低血糖状態の改善が望まれますが、意識がない状態では口から糖分をとることは困難です。

 

そこで使用されるのが、血糖値を上げる作用のあるホルモンであるグルカゴンです。以前から使用されていたものの注射製剤であったためなかなか普及が進んでいませんでしたが、2020年に鼻から投与できる剤形である「バクスミー」が使用できるようになりました。普段使う薬と言うよりは消火器の様に家のわかりやすいところに置いていざというときにご家族に使用していただくお薬です。意識が無い状態で使用する薬剤であり、使用するのは本人ではなく周囲の人間となります。イメージとしては心室細動の際に使用するAEDに近いような気がします。これまでは患者さんのご家族に限られていましたが、条件付きながら学校の先生にも認められたのは大きな変化かと思います。とはいえ学校現場の先生方がプレッシャーを感じてしまわないように配慮も必要な気がします。もし教員の方で来院されることがあれば声をかけていただければ実物をお見せしてご説明できますのでよろしくお願いします(かなり限定的な状況ですね)。